【「夜闘」衛藤潤】

  酒が好きな職場の同僚の飲み友達と、酒場の近くの公園で相撲をとろうといわれる。それ以後、相撲に夢中になる。相手が配置転換なって、やがて相手が居なくなるのだが、勝負への意欲は衰えない。人間は遊ぶ動物とされていて、この部分にスポット当てている。面白く読めるが、主人公と飲み仲間の人間像が、筆致の重厚さに対して、影が薄いのはホモサピエンス的視点によるものなのか、こんな書き方もあるのだな、と思わせる。

 

【映画評論「クラシック日本映画選8『怪談』」石渡均】

 今回は1966年の小林正樹監督「怪談」(原作・小泉八雲)のアナログ的リアリズム手法撮影の詳細を述べており、CG時代の現代とは異なる撮影法技術であり、それを演じる役者との精神的な緊張感がよくわかる。超常現象を表現するからこそ、リアルさが求められた時代の雰囲気がよくわかる。写真もあって感慨深い。

 

【「YOKOHAMA発(5)大池こども自然公園生態系レポートー4―」鈴木清美】

 残された自然の大池に関する環境観察及び評論で、「酸性雨」編とし、現代の都会自然環境レポートとして、興味深く読める。TV番組でも池のカイボリが人気なようだ。問題提起として、野鳥を撮るカメラマンが餌をまいて撮るとか、カワセミの会も注意しているが、三脚を立てるので足元が荒れるという。また、外来種の台湾リスが、在来種生物を食べたりして生態系を乱しているという。具体的で興味深い。都会に、野生の動物が適応して住みつく例が多いという。本来キツツキは東京にはいなかったが、それは枯れた大木が少ないためであったが、明治神宮の森には住みつくようになり、そこを足場に他の森にもいるようになったという。本連載は、地元にとって貴重な記録になるであろう。

 

【「晩夏のプール」片瀬平太】

 大人の童話とあるが、亡くなった叔父との失われた時を復刻するというスタイルの、想念に満ちたスタイルの叙事が、想像力を刺激する。外国のホテルでの生活とその気配が、男性的な雰囲気小説として味わえる。

 

【随筆「ハイデガーを想う(Ⅱ)下(その2)―『技術への問い』を機縁にー」柏山隆基】

 エッセイとはいえ、難しい。存在論の側から科学の発達を論じているらしい。なかに、生活の利便性のためにコンクリートの物質に囲まれて生活することと。自然に触れ合うことの好いとこ取りをする人間性について触れているところがある。そこからデカルトやニュートンの神のもとでの人間論理を振り返る。後は、読んでも難しくてわからない。

 文学芸術としては、この世の現象を表現するのであるから、ここで少ししか触れていないフッサールの現象学につながる話も欲しいように思った。