フォトエッセイ – 津 軽 独 行

写真・文  んねぞう

[ おことわり ]
このエッセイは、文芸同人誌『澪』17号所載のフォトエッセイ『竜飛』を、Web掲載向けに翻案したものです。

太宰 治の『津軽』でその存在を知った、津軽半島最果ての地、竜飛崎を目指し、新青森行き始発の新幹線で東京を発つ。

列車を乗り継いで、終着の三厩にて。かつては網元の家でもあったのだろうか。太宰が歩いた時には、この建物は三厩の繁栄を支えていたものの一つではなかったか。

冬という季節柄、雪交じりの曇り空で人通りのないひっそりとした今の佇まいも、独り歩きが好きな私には、好ましいものに感じられる。

三厩からの町営バスを降り、やっと竜飛に来ることができたという感慨と共に、何故か懐かしさ、優しさを感じる。強風と荒波が猛威を振るい、人々は苔のように張り付いて暮らしてゆかねばならない土地という、私の先入観を軽く覆されたせいだろうか。

翌朝、昨日とは打って変わった強風と荒波が猛威を振るう中、自分の内なる竜飛への憧憬の影を求めて、人気のない海岸をあてどなく彷徨う。

荒々しく打ち寄せる波、狭い土地に肩を寄せて張り付くように立っている建物。風雪の浸食に抗いながら、それでも人間は昔から何とかして生きてきた、しかし、やがては消えゆく運命にあるその証。実はこういうものを、私は追っているのではないか。

そして、厳しい気候風土の中で育まれた「じょっばり(強情)」に始まる津軽人の特性。目まぐるしく移り変わる天気の中、風雨に晒されつつ、独り思いのまま彷徨いながら、そういうものが津軽三味線を生み、太宰 治とその作品群を生んだのだという思いを強くするのだ。